london

空港を出ると、雲ひとつない青空が広がっていた。9月にしては空気がひんやりしている。新谷美和はロンドンのヒースロー空港に降り立ちドキドキする胸を押さえた。

タクシー乗り場にいくと、真っ白なひげを蓄えた小太りの白人のおじさんがタクシーの横に立っていた。無表情でいかにもアングロサクソンな顔は、美和に話しかけるのをためらわせる。

勇気を振り絞って話しかけた。
Excuse me, I would like to go to… え~と・・・
ホテルの予約を印刷した紙を取り出そうとすると
×××××××××?
聞き返されたが全く聞き取れない。

なんか私、怒らせた? 圧倒的威圧感のおじさんに怯みそうになりながら、気持ちで負けちゃいけない!と自分に言い聞かせる。正しい英語を話そうとするよりも、大きな声ではっきりと・・・ボソボソ心の中で呟き、気を取り直してもう一度。

ディス ホテル プリーズ!!

大きな声でホテルの予約の紙を指さして伝えた。するとおじさんはにっこりOK!と答え、

Is this all your baggage?
とスーツケースを車に乗せようと持ち上げ

Oh! So heavy. Your boyfriend must be in this bag!
とジョークを言って笑った。

私も笑った。
ジョークが面白かったわけではない。英語が聞き取れて嬉しかったのだ。美和はウキウキとした気持ちになった。

タクシーを降りて、ホテルにチェックイン。想定通りの英語のやり取りは難なくクリア。ほっとして部屋に入りベッドに横たわる。ハンドバッグからおもむろに一枚の紙を取り出す。

【英語は最後は度胸です。新谷さんは基礎的な会話は出来る様になりましたので、あとは堂々と、大きな声ではっきりと話して下さい!(カタカナ発音でも結構です!)それからこれはレストラン、買い物、ホテルなどで使えるフレーズですので良かったらロンドンに持って行ってください!】

英会話スクールのカウンセリングの時にもらったアドバイザーの走り書きである。

初めての海外一人旅。今までツアーや英語の話せる友達に頼っていたが、今回は全て自力。ホテルの手配から美術館のチケット予約まで自分でやった。美術館のチケットは現地に電話をして英語で確認までした。昔の自分では信じられないことだった。

走り書きにはこうも書いてある。

【聞き取れない時は、聞き取ろうとしないで下さい。むしろ何を言っているか予想して下さい。こんな事を言ってるんじゃないかな?と思っていると、キーワードが聞き取れます。

例えば、レストランでウェイターに話しかけられたら、聞き取ろうとせず、注文を取りに来たのかな?「まずは飲み物はいかが?」もしくは「おいしいですか?」「他に注文ありますか?」ということを聞きに来たと予想します。

すると「・・・drink?」とか、「・・・・alright?」とか、「anything else?」など、重要な単語が聞こえてきます。シチュエーションから内容を類推することがリスニングのコツです!】

ここに来て、アドバイザーのアドバイスが俄然大切な情報になってきた。

「英語力を高める為には、大きな声で話す度胸とか雰囲気から類推する力などが大切って事か・・・。よく考えると、なんだか英会話スクールっぽくないアドバイスね。」

苦笑しながらベッドの横に広がる窓の外を見おろした。イギリス人で溢れかえる街並みに、美和は武者震いをした。さっそくコンシェルジュに相談して、おいしいレストランに乗り込もう。

走り書きをポケットに突っ込み、美和は颯爽とホテルの部屋を飛び出した。

 

英会話を学ぶ自分が想像できたら・・・

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