party

お台場はクリスマスの装いで賑わっていた。学生時代に来た頃は、まだ何もなかったのだが周りの施設も充実して今では大変な人出である。

2012年、12月16日。

桂洋子は久しぶりのお台場に戸惑いを隠せなかった。この日は通っている英会話スクールのクリスマスパーティーがあり、普段は乗らないりんかい線に乗り、東京テレポート駅からアクアシティに向かって歩いている。年末とクリスマスの喧騒で一層の賑わいを見せる人混みをかき分けながら、洋子は会場を目指した。

ホントすごい人だわ。
ひとりごちながら、スクールでもらったチラシを片手に歩き、たった一人で参加のパーティーに緊張をしていた。洋子はこういったパーティーは蛇蝎のごとく苦手で、スクールに入会した時もイベント参加なんて考えた事もなかった。ところが、受付のアドバイザーの若い男性が是非にと誘ってきたので、つい申し込んでしまったというのが実際のところである。

「桂さん、12月にクリスマスパーティーがあるんですけど、宜しければいかがですか?」

「うーん。そういうのは苦手なんですよね。英語もまだ上手じゃないですし。一人で行くのも不安なんで」

「そうですか。でも絶対に楽しいですよ。皆さんお一人での参加ですからね!不安はみなさん同じです。それから英語も大丈夫です!もちろん英語で話したい方は英語でお話しされますが、日本語だけでも大丈夫なんです。一年の最後ですよ。最後は何かほら。パーッと飲みたいじゃないですか!忘年会みたいなものなので、ぜひ来てください。ねっ!ほんとに!」

「でも、まだ予定がわからなくて・・・」

「まあ、そう言わずに桂さん!きっとファーッとした雰囲気でブワーってなって、ワハハーってなりますよ。ね!」

「うーん。そんなに言うなら行こうかしら。」

「やった!当日は絶対楽しいですよ。めくるめくクリスマスを過ごしましょうね!当日お会いするのが楽しみです!」

勢いで申し込んだは良いものの、いざ当日になるとやはり不安である。指示のあった結婚式二次会程度の服装に身を包んでいる洋子は、一応お洒落はしてきたものの、パーティーで浮いてしまったらどうしよう・・・と思いをめぐらせながら会場についた。

「桂さーん!どうぞー。こちらです。」

スクールで誘ってくれたアドバイザーの田村が会場で受付を担当していて洋子はほっとした。ひとまず完全アウェイの恐怖から解放された気分である。田村はそそくさと出てきて、洋子を会場へ案内してくれた。

「じゃ、こちらが本日のアジェンダです。それからドリンクはもう飲めますので、ぜひワインなどお持ちになってお待ちください。それでは楽しんで下さいね!」

満面の笑顔の田村は忙しそうに会場の受付に戻っていった。
残された洋子はさっそく恐れていた「一人ぼっち」となった。洋子は笑顔で去っていく田村にひきつった笑みを投げかけつつ会場を見まわした。なるほど中々素晴らしい会場である。200人は入ろうかというレストランで、天井高も数メートル。窓を見ればレインボーブリッジが臨め、会場内では思ったよりも華やかな服装の紳士淑女が談笑している。入口には大きなクリスマスケーキがおいてあり、ご丁寧にメリークリスマス!ワンナップ!と書いてある。

100人は食べられるであろう大きなケーキを眺めていると、顔見知りの講師にハロー!と声を掛けられ、少し心が落ち着いた。カウンターで白ワインを手に取り、受付でもらったアジェンダに目を通す。別に読みたいわけでは無いのだが、他にすることがないのである。
不意に後ろから話しかけられた。

「すいません。僕こういうの初めてなんですけど、これはとりあえずビールを飲んで待っていれば良いって事ですかね?」

「はい。私も初めてのイベントなんですけど、どうなんでしょうか・・・。アジェンダではこれから乾杯があるみたいですよ。」

「そうですか。あなたも初めてなんですね。てっきり皆さん常連さんばかりかと・・・。じゃ、これから始まるって事ですね。」

そういって男はビールをゴクリと飲んだ。洋子は丁度良い話相手が出来たと思い、簡単な自己紹介をした。男は一上と名乗り、恵比寿校の生徒らしかった。英語力はまだまだなので緊張します、としきりにグラスを傾ける。一上は仕立ての良いスーツに赤のポケットチーフ姿。やたらとおいしそうにビールを飲む男だった。

そこへ、飛び切りの笑顔で講師のローレンが現れた。ローレンはどうやら一人ぼっちでおろおろしていた女性を連れて紹介しに来たようだった。レッスンで会う時とは全く違う雰囲気のローレンの横で照れ笑いをする女性は、黒いドレスにピンク色のバッグがまぶしかった。春名絵美子というその女性は派手な名前の割に育ちの良さそうな清楚な女性である。歳の頃なら三十路になったくらいであろうか。

「すいません。私こういうイベントは初めてなんです。私は品川校なんですが、お二人は同じスクールの方ですか?」

「いえいえ。僕は恵比寿校で、桂さんが銀座校です。僕たちも初めての参加ですよ。しかしすごい人数になってきましたね」

見渡すといつの間にか会場は華やかなスーツやドレスに身を包んだ人々で埋め尽くされてきていた。外国人講師も多く、ワインを片手に英語・日本語で語らっており、とても華やかな雰囲気である。よく見ると、長く通っている常連さんらしき生徒もいるが、多くがもじもじと落ち着かない。緊張からか、ひっきりなしにお酒を飲んでいる人が多い。

人が増えるにつれ、会場はガヤガヤした雰囲気になってきた。スクールのスタッフはドレス姿でキビキビと走り回っている。向こうでは講師と必死に英語で話してる40代の日本人男性。

「ディス イズ ファーストタイム トゥ ジョイン ワンナップイベント。アイムベリーエキサイティング・・・じゃなかったエキサイティッド!」

流暢なのかどうかわからない英語だが、自信をもった英語っぷりに興味がわく。自分の英語力と比べると、上手な英語もそうでもない英語もどちらも刺激になるものだと洋子は思った。

「あー!姉川さん!お久しぶりです!」スタッフが男性のもとに駆け寄った。

「その後会議はいかがでしたか?」

「その節はどうも!なんとか気合いで乗り切りました!英語なんかで負けるかって必死の準備をしたのが効きました。お陰様で英語にも大分慣れました。ありがとうございました」

「そうですか!良かったですー。正直ちょっと心配してました。だってあの時の姉川さん、かなり思いつめた顔してましたよォ」

「わははっ。確かに。あの時は流石に追い詰められました。頂いたアドバイスはとても役に立ちましたよ!」

「キャー!良かったです。これからも頑張って下さいね!」

マイクの音が響く。

「ア、ア、ア。 マイク入ってる? 聞こえる? うん。じゃあオッケー。 いくよ。えー、それでは乾杯したいと思います。みなさん飲み物はお手元にありますでしょうか?大丈夫ですかー?
・・・はいっ。それでは皆さん!今年も仕事に英語にお疲れ様でした!メリークリスマス!」

乾杯とともに大音量で流れるマライアキャリーのAll I want for Christmas is youが、気分を高揚させ、そこかしこでグラスが鳴る。
洋子も微妙な緊張感の影響で、いつになくワインが進んでいた。

「桂さん、お酒は結構飲む方ですか?」

ビールで大分出来上がった一上が上機嫌で聞いてくる。黒いドレスの春名も赤ワインを片手に打ち解けてきてい様子である。一上が続ける。

「ところで春名さんの鞄、とても目立つピンクですね」

「そうなんですよ。結構良いでしょ?でも桂さんのその背中ばっくりのドレスはちょっとセクシー過ぎじゃないですか?フフフ」

「えー!これでも必死に選んできたんですよー!」

思いがけず大声を出した時、スタッフの田村が駆け寄ってきた。

「なんすかなんすか?皆さん盛り上がってるじゃないですか!あれ?確か恵比寿・品川・銀座で御三方とも別のスクールですよね!もう打ち解けてるなんてすごいなー。これから色々と趣向を凝らした余興もありますので、楽しんでいって下さいね!あ、でも桂さんはドレスの具合からいって既に相当ノってますよね!」

「だからーーーっ! ドレスは必死で選んできたんです! もうやめてっ!」

ひとしきり談笑して田村が言う。

「じゃ、これから僕、余興の準備に入りますのでまた後程。それから桂さん。来てくれて本当にありがとうございます」

さらにこう続けた。

「やっぱり来て良かったでしょっ? ・・・ということで皆様後ほど~~~」

軽快に走り去る田村。その優しく軽い物腰がまた一同の笑いを誘った。

洋子はクリスマス仕様の赤と緑にライトアップされたレインボーブリッジを眺めながら、一人も知り合いのいないこのパーティーに気軽さを感じ始めていた。

「しかし今年も本当に早かったですねー。皆さんがどんな方か知りませんが、取りあえず3人でもう一回乾杯しませんか?」

一上が言うと、春名も続く。

「そうですね!じゃあ、桂さんもご一緒に!今年もお疲れ様でした!乾杯!」

三人はグラスを鳴らし、2012年の終わりと聖なる夜に乾杯した。

 

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